2500万円の税金滞納。以来、坂道を転がるように…
「あれ、柏さん何しているの?」
東京・池袋の現場で問いかけてきたのは顔見知りの寿司屋の親方だった。その6、7年前まで私は池袋に出版編集プロダクションの事務所を10年ほど構えていた。その寿司屋は事務所の近くだったこともあり、よく通っていた。親方が驚くのも無理はない。
ここのところすっかり無沙汰とはいえ、馴染み客がガス工事現場でヘルメットに交通誘導員の制服を着て片側交互通行のため赤い誘導灯を振っているのだから……。
ようやく交通誘導員の仕事も板についてきたとはいえ、私もやはり気恥ずかしかった。
「いやあ、見ての通りですよ。交通誘導員をしています」
「え、そうなの。なんでまた……」
「あ、仕事中なのでそのうちお店にお邪魔した時にでも」と答えるのが精いっぱいだった。
なぜ私が警備員になったかといえば、ご多分に漏れずカネがなくなったからである。出版社勤務後にはじめた三十数年にわたる出版編集プロダクション経営は順調だった。たくさんのベストセラーも手掛けた。出版不況といわれる今とは違って、時代もよかったのか1冊で3000万円前後の印税収入を得た本も何冊か生み出した。