学費を大幅減額できる「地域枠」は医学部生に有益?「年季奉公みたいな制度」と疑問の声も
学費の自己負担が大幅に減額される医学部地域枠。医師不足に苦しむ都道府県が出資。医学部生を囲い込むために設けられた制度だ。地域枠で入学した学生には修学資金が自治体から貸与され、卒業後、特定の地域の指定された診療科で一定期間、従事すれば返済が免除される。
私立、国公立問わず、数多くの大学で実施され、23年度入試は医学部定員9384人中961人が地域枠で10.2%を占めた。学費が実質ゼロになるケースも多く、「カネがなくても医学部に行ける」といったうたい文句でマスコミにもたびたび取り上げられている。
「医学部地域枠はあくまでも医師の偏在を解消するための制度」と話すのは厚生労働省医政局の職員。その制度を大きく揺るがしかねない事件が起きたのは4年前。地域枠の卒業生5人が、出資した自治体が許可していないにもかかわらず、初期研修先として別の都県に入職してしまったのだ。
「研修医の横取りです。地域枠の学生を採用した病院には厚労省からの補助金を減額するなどの処分が下されました」
前出の厚労省職員は当時を振り返り、腹立たしげに次のように続ける。
「地域枠の医学生をそのまま、自分のところの付属病院に入れてしまった大学があったのです」
■地域枠の医学生を“横取り”した東京医科大
私大中堅の東京医科大である。茨城県の地域枠で入学した学生を卒業後に東京・西新宿にある東京医科大学病院で採用したのだ。厚労省職員は「ここまでコンプライアンスの欠如した大学もめずらしい」と憤る。
近年は入試で文部科学省幹部の息子に有利になるように加点したり、女子と浪人に対する得点引き下げなど不正が次々に発覚。同大元講師の外科医は母校の一連の不祥事に「情けないかぎり」と嘆く。ただ、地域枠問題については東京医大のルール違反は論外としながらも「年季奉公のような制度にも問題がある」と疑問を呈する。
たとえば山梨県の場合、国立の山梨大に35人、私大に若干名の地域枠を設け、学生1人当たり毎月13万円、在学中の6年間で計936万円を貸与する。卒業後15年間のうち9年間、知事の指定する県内の公立病院などに勤務するのが返済免除の条件となっている。
この年季奉公から逃れるには貸与された額を返済すれば済むというわけではない。山梨県の場合はさらに違約金まで設定しているのだ。卒業後すぐに離脱すると、842万円の違約金が生じ、貸与額と合わせ1778万円を一括返済しなければならない。その時期によって最大2340万円まで返済額が跳ね上がる。
「結局、大半の医師が上限まで働かされることになる。こうした病院では元々、医師が不足していて指導する先生も少なく、腕が磨けないとの悲鳴も聞こえてくる」(前出の東京医大元講師)
なお、東京医大は22年度入試まで山梨県の地域枠を設けていたが、23年度から廃止している。
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