本田圭佑「虚像と実像」(6)中1の少年を襲ったクラムジー
「何でやろ?思うように動けへん」
ガンバ大阪ジュニアユースのコーチ陣から「走らんかい!」といくら怒鳴られても、かたくなにパスの供給役に徹した。
中学1年の後半になると、その傾向はより顕著になった。ピッチを縦横無尽に走り回る選手が評価され、いつまでも「動こうとしない」本田はベンチに追いやられる。苦虫を噛み潰したような表情で仲間のはつらつとしたプレーを見る日々が続いた。
その頃だった。体が重く、何とも言えない倦怠(けんたい)感が襲い始めた。日常生活でも体が言うことを聞かない。試合に出ても、当たり前のようにできていたプレーすらできない。体に染み付いたワザも使えず、ボールもうまくさばけない――。
「何でやろ? 思うように動けへん」
原因は「クラムジー(Clumsy)」だった。急激に成長することによって、体と精神のバランスが崩れ、これまで会得した技術ができなくなること。成長痛によって膝、足首などが痛み、満足にプレーできないことで「オレは何をやってもダメ」と精神的スランプに陥る事例も少なくない。このクラムジーに悩まされたのだ。