日韓W杯団長・木之本興三氏「雲隠れ本田選手の了見疑う」
負けても「よくやった」「感動をありがとう」と甘やかされてきたサッカー日本代表。ブラジルW杯では、一部主力選手の「優勝も狙える」にメディアも尻馬に乗って大騒ぎ。その結果が1分け2敗で1次リーグ敗退の惨状だった。93年Jリーグ発足の旗振り役を務め、02年日韓共催W杯日本代表チームの団長としてベスト16入りを見守った木之本興三氏に日本代表の問題点などを聞いた。
――ドイツの4度目の優勝で幕を閉じたブラジルW杯で日本代表は1分け2敗に終わり、1次リーグ敗退となりました。それから日本代表の次期監督の名前ばかりが取り沙汰されています。
「メキシコ人監督のアギーレ氏に内定したかのような報道が目に付きますが、大きな疑問があります。なぜザッケローニ監督の後任候補に日本人指導者の名前が挙がらないのでしょうか?指導者ライセンスの最高位であるS級ライセンス保持者は、すでに400人を超えています。日本人にも優秀な指導者は多い。代表監督選びの俎上に日本人指導者を載せる時期が来ていると思います」
――もちろん次期監督選びも大事ですが、何よりも惨敗に終わったW杯を冷静に振り返り、反省・検証する必要がありませんか?
「06年ドイツ大会も1分け2敗で1次リーグ敗退でしたが、その時も検証作業は行われませんでした。今回も責任追及の声はなく、誰が責任を取るでもなく、ブラジルW杯の反省も検証もなされないままに時間が経過しています。いま一度、日本サッカーに関わる者すべてが、南アW杯以降の4年間をきちんと反省し、ブラジルでの現実を総括する必要があります」
――日本代表が未勝利でブラジルから帰国するとは、大多数の日本人にとって想定外でした。
「私自身、結果について驚きはありません。予想通りの結末だったからです。日本代表は、W杯に<傲慢で不遜な態度>で臨みました。以前から本田選手を筆頭にしてベスト8、ベスト4、いや優勝も狙えると一部の選手が発言していました。己の力を過信した選手たちでは、国の威信をかけたW杯では勝てません」
――ザッケローニ監督は「たとえ2点、3点取られても3点、4点取ればいい」とも発言。選手たちも「日本らしい攻撃サッカーを貫きたい」と口々に話していました。
「W杯で優勝候補が1点を奪うのにどれだけ苦労したか? たとえばオランダは、3位決定戦でブラジルを3-0で破りましたが、準々決勝コスタリカ戦(PK勝ち)、準決勝アルゼンチン戦(PK負け)と2試合連続無得点。決勝に進めなかった。ドイツとアルゼンチンとの決勝も、前後半の90分でゴールは生まれなかった。1点取るのに列強も苦心惨憺。なのに日本代表は<3点、4点取って勝つ>と言っていた」
――どうして、こんな傲慢な考えを持つに至ったのでしょうか?
「昨年6月のコンフェデ杯で日本はイタリア代表に3-4で敗れたとはいえ、強豪と互角の打ち合いを演じたと評価されました。これでイタリア人のザッケローニ監督、選手たちは<攻撃サッカーで結果を残せる>と思ってしまった。日本代表は11年のアジアカップを制し、アジア王者という立場でW杯に出場しました。しかし、ブラジルでアジア勢(日本、オーストラリア、韓国、イラン)は3分け9敗。4カ国が12試合を戦い、1勝分の勝ち点しか奪えなかった。しょせんアジアは“世界の谷間”なのです。そのアジア王者の称号も、勘違いの材料だったのかも知れません」
――5月25日に行われた日本代表壮行会にも驚きました。背番号発表あり、ライブありのハデな演出で、会場の代々木体育館には7000人以上のファンが集まりましたが、有料でした。チケット代は1000~2500円(当日券)で、小中学生からもカネを取っていた。何か、日本サッカー協会は勘違いしていると思いました。
「私もサッカー協会の職員に<誰のためのイベントだったのでしょうか?>と聞かないではいられなかった。返答は<スポンサーのため>でした。情けなくも悲しかった。サッカー協会が本来、軸足を置くべきはサポーターであり、サッカー協会に登録費(※注参照)を払っているプレーヤーです。彼らに常に敬意を表した上でスポンサー、サプライヤーに礼を尽くして感謝の意を伝える。これが筋ではないでしょうか?」
※注 日本サッカー協会の登録制度には「第1種」(Jリーグ、社会人、大学生など)、「第2種」(18歳未満)、「第3種」(15歳未満)、「第4種」(12歳未満)、「女子」(12歳以上の女子)、「シニア」(40歳以上)があり、登録選手は年間700~2000円の登録料を支払う。