日韓W杯団長・木之本興三氏「雲隠れ本田選手の了見疑う」
なぜ日本代表は自分の言葉で謝罪しないのか
――日本代表が1次リーグ初戦のコートジボワール戦に1―2と逆転負けしてからのメディア報道については、どんな感想をお持ちですか?
「具体的根拠を示さずに<ギリシャには勝てる>と言い切り、スコアレスドローに終わって1次リーグ突破が絶望的な状況になると、より一層<日本代表は奇跡に向かって突き進む>と感情的な報道に終始しました。すでにラウンド16進出を決めていたコロンビアは、レギュラー8人をベンチに座らせ、日本の選手は前半を1―1で折り返した時点で疲労困ぱい。最終的に1―4の完敗でした。日本の“本当の”実力を見誤り、サポーターを誤誘導したメディアの罪は重いと思います。純情なサッカー少年、サッカー少女たちは、憧れの日本代表選手たちの<優勝を狙う!>を信じ、メディアの<奇跡が起きる!>に踊らされた被害者と言えるでしょう。せめて選手たちは少年、少女にショックを与えたことを反省し、自分自身の言葉で謝罪して欲しかったと思います」
――6月27日に成田空港に到着した選手たちは、出迎えた約1000人のサポーターの前をうつむいて歩くだけでしたね。
「実に嘆かわしい光景でした。選手は“お通夜の焼香帰り”のような表情を崩さず、サポーターに一瞥もくれずに無言で通り過ぎて行った。どうして一度でいいから歩みを止め、サポーターに向かって<応援をありがとうございます。これからも頑張ります>と言えなかったのでしょうか? 選手たちは、帰国した時の様子を撮ったDVDでもあれば見直すべきです。いかに失礼な対応だったか、自覚しなければいけません」
――帰国便に乗っていなかった選手が2人。ドイツの移籍先クラブでメディカルチェックを受けた長谷部は、別便で27日中に帰国しましたが、本田はブラジルから直接イタリアに向かい、ただひとり帰国しませんでした。
「本田選手は、W杯の開幕前にメディアに<大会中は、同じ日本人として日本代表を応援して欲しい。(勝てなくて)叩くとしてもW杯が終わってからにして欲しい>と要請しました。一部のマスコミ関係者にしか口を開かず、メディアと距離を置きながら、こんな要請をすること自体、どうかと思いましたが、誰よりも優勝を公言していた本田選手に話を聞こうにも、ひとりだけ帰国しないで雲隠れ。どういう了見なのか、まったくもって理解に苦しみます」
――今後、日本サッカーのレベルアップに必要なものは何でしょうか?
「93年にJリーグがスタートし、98年フランス大会で初のW杯出場を果たして以来、日本代表は5大会連続でW杯の桧舞台を踏んでいます。日本サッカーは、間違いなく進歩しています。しかしながら、それ以上の速さで世界のサッカーもレベルアップしています。誰もが、そのことをブラジルW杯で痛感させられたと思います。おごらず、謙虚な姿勢を忘れず、不断の努力を続けていく。そうしないと日本サッカーの未来はありません」
(聞き手=本紙・絹見誠司)
◇きのもと・こうぞう 1949年生まれ。65歳。県立千葉高から東京教育大(現筑波大)卒。古河電工サッカー部OB。Jリーグ専務理事、日本サッカー協会常務理事など歴任。26歳で両腎臓を摘出して以来、週3回の人工透析が欠かせない。08年に原因不明の難病バージャー病で両足を膝上から切断した。現在は㈱エス・シー・エス代表。NPO法人アブレイズ千葉サッカークラブ代表。