<第14回>「仏様が見守ってるから大丈夫」寺の本堂でうそぶきながらバクチに興じる親方がいる
「ちぇっ!」
大きな舌打ちとともに、あぐらをかいた力士が1万円札を放り出す。向かい合っている力士はニヤリと笑うと、それを掴んで脇にある1万円札の山へ。そして慣れた手つきで花札を一枚ずつ配りながら言う。
「さあ、どっち!?」
世間を騒がせた10年の野球賭博騒動から5年。もはや相撲取りはバクチをしない……と、思うファンも多いだろう。しかし、花札バクチは巡業中、頻繁に行われているのが現状だ。
「ヒマな時間が多いし、本場所と違って緊張感もないからね。しかも男所帯となれば、やることはバクチしかないでしょう。これも江戸時代から続く相撲の歴史じゃないですか(笑い)」(元力士)
地方巡業中の支度部屋は無法状態。一般人は勝手に入れないだけに、人目をはばかることなく力士はバクチに興じている。部外者が訪れた時は、見張り役がせき払いなどで合図。それを聞いた力士らは、はじかれたように腰を跳ね上げ、手早く札束と花札を座布団の下へ。その上に再びどっかと座るのだ。一連の動作はわずか2秒ほど。本場所でもめったにお目にかかれない、本気を出した力士の瞬発力のなせる業だ。