師匠は師匠。師匠の言うことを聞けなければ辞めればいい
「師匠は弟子にとって亡くなるまで師匠なんだ。弟子が偉くなったからって調子に乗っちゃダメ。師匠が『要らない』って言ったら、この世界にはいられない……クビなんだよ。部屋に入ってから誰が世話して、誰が面倒見てくれた? 関取になってからだって、たとえば、誰のおかげで化粧まわしとか着物とか作ってもらえたの? ほとんど師匠の顔で作ってもらえたんだよ。
たとえ師匠の現役のときの番付より出世したって、そういうことを忘れちゃダメ。師匠は師匠。師匠の言うことが聞けなかったら辞めればいい。
どこまでいっても弟子は師匠を超えられないものがあるんだよ。いっぱいね。何か、超えられないものがあるんだよ」
何度も繰り返される白鵬の言動の中で気になって仕方がないのが、亡くなった大鵬を「日本の父」と呼ぶことだ。角界で生きる彼にとっての日本の父は、師匠の宮城野親方であるはず。次回は武蔵川親方に、そのあたりを聞いてみよう。(つづく)
取材・構成=ノンフィクションライター・渡辺勘郎
▽むさしまる・こうよう 1971年5月2日、米国領サモアで生まれ、ハワイで育つ。高校卒業後に武蔵川部屋に入門し、89年秋場所で初土俵。91年名古屋場所新十両、同年九州場所新入幕。99年名古屋場所で第67代の横綱に昇進した。55場所連続勝ち越し記録は歴代1位。03年九州場所後に引退。優勝12回。通算779勝294敗115休。96年1月に日本国籍取得。現在は武蔵川親方として後進の指導に当たっている。