池谷幸雄氏が激白 塚原夫妻“権力の実態”と体操協会の暗部
■入念な身体検査
――夫婦が運営する朝日生命体操クラブへの選手引き抜きも問題になっている。
「選手を引き抜こうとするとき、周りのことをかなり調査するらしい。どういう人間関係か、親やコーチの出身、学校や練習環境。もちろん、(朝日生命は)器具も施設も充実している。選手は名門への憧れもあると思います。野球なら巨人に行きたいというのと同じ。多くの日本代表を輩出して、体操界のトップにいる2人が経営者なわけですから、何も知らない親は『あんなところから声をかけられた』と喜んですぐ移ってしまう。今はそこまで強くないし、内情を分かっている人が多いので、強い選手も行かなくなりましたが」
――体操クラブはかなりの運営資金がかかると聞く。
「体操は利益のことを考えたら、(競技志向の選手を育成する)選手コースはできない。お金がすごくかかる。器具を揃え、土地を確保して、コーチをつけて給料を払わないといけない。コーチは長時間の指導に見合った給料が出ないこともあるので、やればやるほどしんどい。それでもなぜやるかといったら、自分のクラブから五輪選手を出すことが夢だから、しんどくて給料が安くてもやる。その夢を(引き抜きで)バサッと持っていくわけですから、それは耐えられないですよ。だから勧誘には問題がある」
■女帝の録音禁止令
――宮川を指導していた速見佑斗コーチの暴行問題が発覚した背景にも、千恵子本部長による宮川の引き抜きがあるといわれている。
「もちろん暴力は良くないこと。それは速見コーチ本人も認めています。ただ、まず口頭で注意して、それでもやめずに親や選手が処分を求めているのであれば処分すべき。そうじゃないのに、体操協会もよくここまでの処分を下せたなと。『選手ファースト』じゃないというのも疑問だし、すごく残念で不信感を持ちます」
――千恵子本部長は宮川との会話を録音していた。
「これは推測ですが、いつもとっていた中の一部なんじゃないかなと。公開された録音データは宮川選手がパワハラと訴えている翌日のもの。前日に何かがあって、その次の日からとり始めたのかもしれない。何かの証拠に押さえておかないといけないと思ったんでしょうね。基本、(選手との会話を)とる必要はないですから」
――普段から用意周到なのか。
「合宿が始まる前、選手やコーチを集めてミーティングをするとき、合宿の目標などの説明があるんですが、そのとき『(会話などを)録音するのはやめてください』と選手やコーチにアナウンスしているらしいんです。それは強化本部長本人じゃなく、付き人といわれる審判員の方なんですけど。それで、自分たちはとっていいのかというのは疑問に残りますよね」
――暴力と指導の線引きが難しい部分もある。
「どこまでが許される指導範囲内かということ。例えば、足を伸ばすという動作を覚えさせるため、曲がった膝をパチパチ叩くことがある。叩くことでそこに感覚を残し、その状態で技に入れば、足にも意識が残るんです。体操をやったことがない人には分からないかもしれませんが、それを暴力といわれると、何もできないというか選手の成長が遅くなりますよね」
――塚原夫妻も長年、体操に携わってきた。暴力と指導の境界線は分かっているはず。
「体操選手とコーチの関係は分かっているはず。同じ指導者じゃないの、と。そこは理解してあげないといけないんじゃないかと思います。第三者委員会が言うなら別ですが、体操協会の中での処罰ですから。もうちょっと考え方があったんじゃないか」
金銭面での問題はないのか。
=つづく
(聞き手=中西悠子/日刊ゲンダイ)
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