コロナ禍に揺れるJリーグを緊急探訪【横浜F・マリノス】
選手は小中学生に声をかけることも握手をすることもできず
Jリーグの再延期決定を受け、新型コロナウイルス感染対策を強化するクラブが増えている。その筆頭が2019年シーズンのJ1王者である横浜F・マリノスだ。彼らは最初の延期が決定した2月末以降、ファンに対する練習公開を休止。報道陣のみに限定していたが、3月の2週目からは選手への取材対応を週2回に制限。13日以降は収束のメドが立つまで完全非公開とすることを決めた。「いつ再開してもいいようにコンディションを落とさず、チームの調子を上げたい」と日本代表DFの畠中槙之輔も話したが、彼らも普段とは異なる難しい環境での調整を強いられそうだ。
◇ ◇ ◇
メディア制限前の数少ない練習公開日となった9日。横浜は本拠地・日産スタジアムに隣接する日産フィールド小机でトレーニングを実施した。ポステコグルー監督は2日前の練習試合の分析のためび不在だったが、昨季MVPの仲川輝人ら選手たちは、リラックスした様子でボール回しなどを行っていた。
「中断になっても普段と変わらず、質を上げるだけです。(1ー2で黒星を喫した2月23日の)J開幕のガンバ大阪戦では何もできなかったし、もう1回、気を引き締めて、壁を超えられるように努力していきます」と仲川は言う。
昨季は15ゴールで得点王に輝いたが、今季は背番号と同じ23ゴールを目標に掲げ、より高みを追い求めていくつもりだ。
しかしながら、試合がいつ再開されるかハッキリしなければ、突き進みようがないのも事実。
守護神のGK朴一圭も「練習は公式戦に向けてやるもの。それがないのは正直、モチベーションを上げ切れない部分はありますね」と顔を曇らせた。
そんな彼らを悩ませるもう1つの問題が、ファンと触れ合う機会が失われたことである。
横浜の場合、マリノスタウンが2016年1月に閉鎖されて以降、複数の練習場を転々としているが、この日のように一般利用者と隣り合わせでトレーニングをすることも少なくない。
全国一斉休校の影響で同日は小中学生の姿も多く見られ、彼らは選手の一挙手一投足を興味津々で見つめていたが、仲川らは声をかけることも、握手をすることもできず、複雑な表情を浮かべるしかなかった。
日頃、地元や支えてくれる人々との関係を大事にしているクラブとしても、そのあたりは辛いところだろう。
■名門のアカデミーも休止に
子供たちとの関わりという部分では現在、アカデミーも休止せざるを得ない苦境に陥っている。横浜の下部組織は中村俊輔(横浜FC)や栗原勇蔵(現アドバイザー)、現キャプテン・喜田拓也らを輩出した名門だ。
Jリーグ育成ダイレクターを務めた松永英機ダイレクターなど優れた人材にも事欠かないが、学校一斉休校の現状ではさすがに身動きが取れない。
活動ができていない以上、会費を支払ってもらうのも難しく、経営的にはかなりの痛手。2018年度は約11億円だったトップチームの公式戦入場料収入、約20億円だったスポンサー収入などが目減りする可能性が高まったのに加え、アカデミーの運
営費まで持ち出しになってしまえば、厳しいと言うしかない。
そういった数々の課題はあるものの、何とか事態を打開していくしかない。昨季15年ぶりのJ1の覇者に輝いたトップチームが連覇し、ACL(アジア・チャンピオンズリーグ)でもタイトルを取れば、チーム全体が活気づくはずだ。
「ガンバ戦ではマリノス対策を取られて負けましたけど、今を<ちょうどいい準備期間>だと思ってやっていけばいいと思いながら、すごくポジティブな気持ちでいます。今季はチャンピオンチームと見られている分、危機感を持ってる選手が多い。それはテル(仲川)もキー坊(喜田)もそう。今何をやれるかを考えて取り組んでいきます」という朴一圭の発言は、選手全員の思いを代弁している。
まだまだ先行きは不透明だが、4月3日に予定されるリーグ再開までの3週間をまず、有効活用することが肝心だ。
週2ペースで試合が続く超過密日程を視野に入れ、名将・ポステコグルー監督はどのようなマネージメントを見せるのか。J1連覇に向け、ディフェンデェイングチャンピオンは、完全クローズの環境下でチーム成熟度を高めていく。