松田宣浩が「最強ソフトバンクの真実」を独占激白
2017年から日本シリーズ4連覇中のソフトバンク。昨年は2年連続で巨人に4連勝するなど圧倒的な強さを見せつけた。球界関係者の誰もが「最強」と口を揃えるチームにあって、野手陣のリーダー役を担っているのが松田宣浩(37)である。2005年希望枠で入団し、ソフトバンク一筋。生え抜きのベテランがチームの強さを激白した。
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――松田選手が入団してから、リーグ優勝6回、日本シリーズ制覇7回。そのすべてが2010年以降の成績です。昔と比べて、今のホークスをどう見ていますか。
「強さという点では、今が一番のピークじゃないですか。結果的に日本シリーズ4連覇という数字が物語っていますからね。そうですね、チームの中にいる人間からすると、みんな意識が高い。年々勝っていくにつれて、個人個人の野球への取り組み方の質も向上しています。投手陣と野手陣の和というかバランスというか……それも年々高まっています」
■投手と一緒に食事に行くことはない
――投手陣と野手陣は交流が少なくなりがちですが。
「いや、ウチもないですよ。特にシーズン中の交流は本当に何もない。僕も投手と一緒に食事に行くことはないですからね。決して仲良しではありません。ただ、ひとつのチームとして目指しているものがある。今なら(日本シリーズ)5連覇ですね。そこを意識しているから、普段は交流がなくてもユニホームを着ると自然に団結できる。野手と投手はお互い助け合いですから」
――その一方で、同僚の長谷川選手(36)が以前、チームの若手選手の練習態度に苦言を呈したこともある。近年は若手も伸びてきているが、どう思っていますか。
「いい選手はたくさんいます。でも、僕は『プロ野球選手は3年やって一人前』という考えです。これはまさに今の選手にこそ当てはまっていると思うんです」
――と、言いますと。
「今のプロ野球は1年結果を出したら、すぐにチヤホヤされる世界になってきているんですよ。それで調子に乗る……とまでは言いませんけど、『このままでいいや』と思い込んで更なる努力をせず、翌年以降、痛い目を見た選手を何人も見てきました。この世界はホップ、ステップ、ジャンプなんです。3年やって一人前というのは、そういうことです。せめてジャンプするまでやってから、いろいろとモノを言えと思いますね。例えば年齢的には中堅の柳田選手(32)、中村選手(31)、今宮選手(29)などは、きちんとジャンプまでしている。周東(24)や栗原(24)は、ようやく去年ホップしたばかり。『ホップまでなら誰でもできるぞ』とは、チームの先輩として言いたい。若手からの突き上げ? はい、あまり感じていません」
小久保ヘッドと工藤監督の共通点
――今季からホークスOBで、17年WBCで日本代表を率いた小久保監督(49)が、ヘッドコーチとして加わりました。6年間、選手としても一緒にプレーしていますが。
「今のホークスの伝統をつくった方ですからね。凄い練習をするし、声も凄く出していたし、背中で引っ張ってくれたことも多かった。その意味では楽しみですね。リーダーシップもあるので、僕も『実績ではかなわないけど、ああいう先輩になりたい』と常々思っていましたから」
――具体的に小久保コーチの印象は。
「僕としては侍ジャパンの監督としての印象が強いですね。何事にも選手ファースト。普通、監督って選手とあまり個別に話などはしないんですよ。でも、小久保監督は常に『今はどんな感じだ?』などと聞いてくれる。自分からは言いにくくても、聞いてくれたら話せることもある。そうやって気を使ってくれると、選手も楽になりますから」
――工藤監督の印象はいかがですか?
「野手陣も体づくりやケガ防止など、トレーニングの意識がさらに強くなったのは工藤監督の影響ですね。監督自身、47歳まで現役を続けられたのは、しっかり考えたトレーニングのたまものでしょう。その意味では説得力もあります」
――工藤監督と松田選手といえば、19年CSファーストステージでのスタメン落ち通告が印象深い。その年、シーズンフル出場の松田選手を外したことは「非情采配」とも言われましたが。
「当時は試合に出たい思いもありましたよ。でも、ポストシーズンは状態のいい選手から使わないといけない。実績があっても、調子が悪い選手はスタメンから外す必要もある。そうしたことを工藤監督は僕に説明した上で、『試合途中から出る準備をしてくれ』と。工藤監督は必ず、そうしたフォローがあるんです」
――ただスタメン落ちを通告されるだけではないと。
「選手も人間ですからね。フォローのあるなしで、やる気というのはかなり違ってくる。工藤監督は僕以外にもそうしたフォローを欠かしませんよ」
セ・リーグとの試合では僕のところにほとんど打球が来ない
ソフトバンクは2019年、そして昨季も日本シリーズで巨人を4タテ。あまりの一方的な試合に、「セ・パの格差」も鮮明になった。昔から「実力のパ、人気のセ」といわれていたが、松田はどう思っているのか。
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――はたから見ていると、ここ2年間の日本シリーズはソフトバンクが巨人を一蹴した、という印象でした。
「たまたま4連勝が続きましたが、逆の結果になっていたとしてもおかしくありませんでした。そこは紙一重ですよ。ベンチにいる僕らは常にプレッシャーがありましたし、楽勝なんて誰も思っていない。ひとつ間違えば、ころっとウチらが負けていたかもしれない。その意味では一瞬たりとも気が抜けませんでした。ピリピリしたムード? そうですね」
――以前のソフトバンクはシーズンで圧倒しながら、ポストシーズンで負けることが多かった。
「通常ならシーズンは143試合もあるし、減ったとはいえ去年も120試合。いくら勢いがあっても、それだけでは勝ち抜けない。でも、ポストシーズンは勢いで一気に行けることもある。そこは昔のソフトバンクとは反対ですね。巨人も全体的な選手の技術レベルは高い。見ている方々がどう思っていても、僕らにすれば、たまたま勝てただけです」
――しかし、日本シリーズの結果もあり、いよいよ「パ高セ低」が鮮明になったともいわれている。
「どっちが強くてどっちが弱いとは思いません。ただ、同じプロ野球でも野球が違う、とは感じています。DHのあるなしもそうですが、根本的な何かが違うんですよ」
――具体的には。
「僕の場合は三塁を守っているとき、一番実感します。例えば右打者。パの場合は投手が少しでも甘いコースに投げたら、三塁際に強烈な打球が飛んでくる。これがセの右打者だと、センターから反対方向に落ちる打球を打つので、僕のところにほとんど打球が飛んできませんから。セの右打者も引っ張ろうと思えば引っ張れると思いますが……何か意識の違いがあるのかもしれない」
――投手もパは剛腕、セは巧投手が多いといわれている。
「パはパワーピッチャーが多いですよね。150キロの速球は当たり前で、ボールも重い。『打てるもんなら打ってみろ』と言わんばかりに、ストライクゾーン目掛けて投げてくる。セは逆で、制球力に優れた投手が多い印象です。高低やインサイド、アウトサイドと、しっかりとコースに投げ分けてくる。ただ、それがリーグの(力の)差とは思わない。あくまでリーグの違いであり、それでいいと思います」
併殺が少ない理由、声出しの原点…すべて話そう
コロナ禍の影響で日程が後ろにズレ、試合数も120試合に減った昨季。松田にとっても13本塁打、46打点、打率.228と苦しいシーズンになったが、そんな中でも変わらず自軍を鼓舞し続けた。
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――昨季は6月開幕。調整は難しかった?
「調子のバロメーターが落ちた中で開幕したのが2020年。その意味ではスタートダッシュできなかったのが、(成績不振の)一番大きな要因ですね」
――その一方、併殺はわずか2つ。前年は14個でした。
「それ、このオフに初めて聞かれた話題なんでびっくりしています(笑い)。注目していただいてありがとうございます(笑い)。去年も規定打席に到達していますし、116試合で2つはだいぶ少ない。自分でも驚いています。一塁まで頑張って走ったこともありますけど、特に何か打撃を変えたということはない。もっとゲッツーを打った方が成績はアップしたのかなと思うことはありますが」
――併殺は少ない方がいいのでは?
「ゲッツーは強い打球を正面に打ったときに多いんですよ。その意味では去年は強い打球が少なかった……という逆の発想ですね」
――15年に自身最多の35本塁打。以降も昨季を除いて24~32本塁打を打っている。やはり15年から設置されたホームランテラスの影響はありますか?
「めちゃくちゃありますよ。テラスの恩恵を受けている選手、で調べたら僕が真っ先に出てくると思います(笑い)。僕はヒットの延長がホームランという中距離打者。その意識で、常に強い打球を飛ばすことを心掛けているので、なおさらテラスの恩恵がある。これは柳田選手もよく言っていますが、打つなら『ゴロよりフライ』。ゴロを打っても何もならない。角度のあるフライなら一発もありますからね」
――「熱男!」に代表されるように、声出しもチーム一です。
「12年からですね。それまでは川崎宗則さんが今の僕と同じことをしていました。11年オフに川崎さんがメジャーに行く際に呼ばれて『来年以降は任せたぞ』と。もともとそんなキャラじゃなかったし、難しかったですよ。これが若手だったらさらに大変だったかもしれませんが、当時は試合中の空気や機微もわかっていた30歳。一年一年重ねるうち、声が僕自身の数字を上げてくれていることに気付いた。自分で自分を奮い立たせる効果もあったんです。今は声を出すタイミングもバッチリ。うまいですよ、任せてください(笑い)」
(聞き手=阿川大/日刊ゲンダイ)