山本敦久氏「五輪の弊害、IOCの醜態が露呈した今こそがターニングポイント」
山本敦久(成城大学社会イノベーション学部教授)
成城大学では築80年を超える老朽化した体育館をいまだに使用しています。
東京五輪招致が決まる1年前の2012年、新体育館の建設が決まりました。けれども14年7月、体育館にある荷物の引っ越し予定日の数日前になって突如、計画が中止されたのです。理由は五輪開催に伴う資材や労働力不足、工費の高騰でした。
区や市が一般に開放している施設も、改築や増設が必要に迫りながら、五輪開催のために後回しにされています。一方、政府や都は、きらびやかな五輪関連施設を次々と造っている。東京五輪のせいで一般人の生活インフラが悪化していることは言うまでもありません。
では、「復興五輪」開催の名目にされた東日本大震災の被災地はどうでしょう。生の声を聞くべく、18年と19年の計2回、復興住宅で暮らす人々に取材した時のこと。そこで私は取り残されている福島の現状を目の当たりにすることになりました。
人手や物資は東京五輪に流れ、本来なら優先的に進められるべき復興作業は停滞。一家の大黒柱が五輪施設の建設作業へ出稼ぎに行き、引き裂かれる家族もたくさん見てきました。現地の方々は憤りつつも、華やかな発展を続ける東京に対し、えも言われぬ感情を抱いていました。