【味の素スタジアム】日本vs南ア戦の会場はバリケードに覆われ、防音対策で国歌すら聞こえず
【味の素スタジアム】
「目の前で南ア戦が行われるのに入れない。これは『復興五輪』じゃなくて『失望五輪』ですよ」
7月22日、東京五輪Uー24日本代表の初戦・南アフリカ戦が行われた東京・味の素スタジアム。 キックオフの約2時間前(午後6時過ぎ)から選手バスの到着を待っていた吉田麻也(サンプドリア)の「22番」をつける熱心なサポーターは、ため息交じりでこうつぶやいた。
筆者にとってもここは2001年の開業以来、FC東京の試合などで頻繁に訪れ、慣れた場所だ。
しかも、同日はチケットで試合観戦する予定だった。にもかかわらず、目につくのはバリケードに覆われたスタジアム全体とウロウロする警官や私服警察の様子ばかり。
ファンの憤りに強い共感を覚えた。
■親子連れが残念そうに記念撮影
この日の味スタでは、日本ー南ア戦の前に同じグループA組のメキシコーフランス戦が午後5時から行われた。
直前に行けば、両国の国歌斉唱くらいはスタジアムの外で聞けるかもしれない、と考えて最寄り駅の京王線・飛田給駅から徒歩5分の正面ゲートに向かった。
ただ、残念なことに完璧な防音対策が講じられ、国歌は全く聞こえなかった。それでも五輪動画サイトを見ながらフランスの国歌「ラ・マルセイエーズ」を静かに唱和する人の姿もあった。
彼らはエムバペ(パリSG)のファンなのか、名前入りのレプリカユニフォームを着用。心から応援していたが、エムパペが不参加でU-24世代の主力級も招集できななかったフランスは、メキシコの4-1で敗れてしまった。熱烈な応援は残念ながら結果に結びつかなかったようだ。
一方、勝者となったメキシコのサポーターもスタジアム前に姿を見せていた。
レプリカ姿の3人組に話を聞くと1人は都内在住のサッカーコーチ、2人は新潟からやって来たボランティア。江東区晴海の選手村付近で意気投合して「チケットは持ってなかったけど近くで応援したいと思って来ました」と言う。
そうやってスタジアム内外で国際交流が行われるのが五輪の醍醐味。今回はPVやイベント会場が閉鎖され、そういう場は皆無に近いが、ポジティブな空気をほんのわずかでも感じられたのはいいことだ。
しかしながら、一方では幼い子供を連れた親子連れが何組かが残念そうに記念撮影していた。
その様子を見るのはやはり辛い。
「近くで五輪があるので少しでも雰囲気に触れたいと来ました。一目でもいいから子供に試合を見せたかったですね」と三鷹市から訪れた父親は複雑な胸中を吐露した。が、願いは叶わない。
冒頭のバス待ちのサポーターを含めて「なぜ無観客なのか」という疑問は、本番のサッカーの試合が始まっても拭えない。
南アに1ー0で勝利した日本が予想以上に苦戦したのも、ファンの声援という後押しをもらえなかったことが大きい。
本当に無観客でよかったのか否か。政府と東京都、組織委員会はしっかりと検証すべきだ。
スタジアム前のショップも大打撃
無観客五輪のマイナスを被っているのは、サポーターだけではない。
経済効果を期待していた飲食店やショップ関係者もダメージを受けている。
飛田給エリアではコロナ禍以降、コンビニや居酒屋が何店か閉店を余儀なくされているが、営業を続ける店も売り上げが伸びずに苦慮しているのだ。
その1つが味スタの目の前にある「スーパースポーツゼビオ調布東京スタジアム店」。
本来なら南ア戦開催当日は4万人以上の大観衆が押し寄せ、3階の五輪オフィシャルグッズコーナーには買い物客が殺到するはずだった。だが、人影はまばら。
「2019年のラグビーW杯開催時はレジに大行列ができ、アルバイトも総動員して対応したほど。閉店の午後8時には到底閉められず、午後10時まで働いていました」と当時を知る男性店員は、落差にショックを隠せない。
2020年後半あたりからは、週末の売り上げは回復しつつあったというが、今春になってJリーグの観客制限が再び強化され、五輪も無観客となれば、客足が伸びるはずもない。「公式グッズもなかなか売れないですし、ホント困ったものですね」と彼は苦笑する。
目下、店側の悩みは2階入口の大画面テレビで五輪中継を流すか、それとも否か。流せば「密」ができる恐れがあり、流さなければ雰囲気が盛り上がらない。
味スタではサッカーの試合が続くし、隣の武蔵野の森総合スポーツプラザでは、金メダルが有力視される桃田賢斗のバドミントンも開催される。それを中継していなければ、客からお叱りを受けるかもしれない。
五輪会場のお膝元は、いろいろな難しさを抱えているのである。
(元川悦子/サッカージャーナリスト)