著者のコラム一覧
元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

(2)W杯へ一大決戦の地シドニーはアフターコロナの世界 元日本代表とも再会

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 3月24日の2022年カタールW杯最終予選の大一番・オーストラリア戦の開催地シドニーは目下、秋口。19日昼の現地は小雨交じりの曇天だったが、最高気温22度・最低16度という快適な気象条件だった。ただ、1週間予報によれば雨が多く、決戦当日夜も豪雨の見込み。森保ジャパンは、苦杯を喫した2021年9月のオマーン戦(大阪・吹田)のような悪環境でのゲームを強いられるかもしれない。

 夏時間のシドニーは、時刻が日本よりも2時間進んでいる。現地午前7時半(日本時間5時半)に起床。そのままサンジロワーズの三笘薫の試合をチェックし、9時過ぎには観光地の湾岸エリアに向かった。

 サーキュラーキー駅を下りると、美しくモダンなポート・ジャクソン湾が眼前に開けてくる。この風景は2015年1月のアジアカップ以来。ハビエル・アギーレ監督時代の日本代表は準々決勝でUAEに延長の末、PK負け。これが遠藤保仁(磐田)の事実上の代表ラストマッチになった。今回は苦い思いは絶対にしたくないという気持ちが高まった。

 駅から湾沿いの道を歩くと、対岸にシドニー随一の名所オペラハウスが見えてくる。コロナ禍の2年間は、この辺りも人手がほとんどなかったという。

道行く人でマスク着用者は1割以下

 が、今では週末の子供向けイベントが開催されるほど賑やか。道行く人々でマスク着用者は1割以下。厳重にマスクをして歩く筆者の方が目立つほど。そこで2年ぶりにマスクなしで歩いてみたが、どうも落ち着かず、すぐに付け直した。人間の習慣というのは恐ろしいものである。

 街歩きの流れでランチを摂ろうと考えたが、3月に入って急速に円安が進み、オーストラリアドルも約82円から87円台に下落した。となれば、もともと物価の高い豪州での外食のハードルは、より上がる。

 割安感のあるカフェに入り、白ワインとハンバーガーを注文。空腹を満たした。ここでもマスク姿の人は皆無。ワクチン接種・PCR陰性証明の提示も求められなかった。ダーリングハーバー付近もコロナ前と何も変わらない。すでに豪州は完全にアフターコロナに突入しているようだった。

「実は2カ月前まではショッピングモールに入るのも証明書が必要でした。コロナ感染者が減った2月以降、徐々に緩和が進み、多くの人が規制疲れをしていたのか、マスクもしなくなりましたね。一番厳しかった2021年夏のデルタ株の時はマスク着用義務違反に高額の罰金が課されたので、みんな厳守していましたよ」と語るのは、オーストラリア在住5年の元日本代表FW田代有三さん。2007~2009年の鹿島アントラーズJリーグ3連覇の主力だ。

コロナ禍で2度のロックダウンを経験

 彼は2017年にナショナル・プレミアリーグ(NPL)・ニューサウスウェールズ州1部(=豪州2部相当)のウーロンゴン・ウルブスへ移籍し、1年後に現役引退。現地で永住権を取得し、2020年1月にシドニーで「MATE(マイト)FC」というクラブを設立。現在はスクール中心に活動している。コロナ禍の2年間にはロックダウンも経験。当然、日本にも帰国できなかったという。

「2020年春の最初のロックダウン時は、外出できるのが居住地から10キロ以内、買い物も家族の1人だけが行ける形でした。それ以外の外出は毎日1回1時間以内の運動だけ。しかも同行可能なのは同居者以外だと1人。友人と2人で週1でゴルフに行くのが唯一の楽しみでした。デルタ株が蔓延した昨夏は、外出範囲が5キロまで狭まるなど、規制が頻繁に変化しつつ、6~10月まで続いた。スクール活動も休止に追い込まれ、思うように仕事ができず、本当に大変でした」としみじみと苦労を語ってくれた。

 同日夕方、久しぶりに再会した田代さんと向かった先は、NPL同州2部(オーストラリア3部相当)の試合。田代さんとかつてJ2・山形でツインタワーを結成していたFW長谷川悠が、セント・ジョージ・セインツの一員として出場するからだ。

異国で勇敢に生き抜く元Jリーガー

 長谷川は目下、選手兼U-14コーチという位置付け。午前中に英語で少年たちを指導し、夜は公式戦に参戦。この日は後半からの登場だったが、豪快な右足シュートで1点を奪った。

 だが、チームは1-4の敗戦。今月から始まった今季はコロナ禍の特別ルールで上位4チームがNPL同州1部に昇格できるのだが、出足は厳しいそうだ。長谷川自身は激しく削ってきた相手DFとにらみ合うなど、勝利への渇望を強く押し出していた。

 異国で勇敢に生き抜く元Jリーガーの存在を、日本代表の森保一監督や選手たちも耳にしているはず。

 彼らのためにも、日本サッカーの地位向上のためにも、24日の最終予選・オーストラリア戦は絶対に勝利を収めなければいけない。同じストライカーの大迫勇也(神戸)離脱の難局を乗り越えてほしい。2人とも切にそう願っていた。(つづく)

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