ラグビー元日本代表が神宮外苑の再開発計画に警鐘「スポーツウオッシュを許してはいけない」
ラグビー界で「西の花園」に対し、「東の秩父宮」と呼ばれる、神宮外苑の秩父宮ラグビー場。その“聖地”の移転を含めた神宮外苑の再開発計画は、早ければ今月末にも正式に認可が下りるという。しかし、この移転に反対する声は少なくない。そのひとりがラグビー元日本代表の平尾剛氏(47=神戸親和女子大学教授)だ。オンライン署名プラットフォーム「change.org」で、反対署名活動を行っている平尾氏に話を聞いた。
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──移転計画は問題だらけとのことですが……。
「問題はいくつもありますが、まず私が驚いたのは移転後の収容人数です。秩父宮ラグビー場は最大収容人数が約2万5000人。それが移転後は約1万5000人になってしまう」
──1万人も減るのですか?
「私の周囲のラグビー関係者でも、移転計画の内容を知らない人が多かったですね。私が、『1万人減だよ』と説明すると、『ええー! それはダメでしょう!』という声が多かった。『一体どういうつもりなんだ? ラグビーを広めたくないのか?』という人もいました」
──なぜ、そこまで減らす必要が……。
「いろいろ調べたところ、音楽イベントで大型ビジョンが必要なため、その設置で観客席を削ったようです。というのも、移転計画によれば“新秩父宮”はライブやスケートのアイスショー、バスケなどもできる多目的スタジアムになるらしい。しかも、人工芝、あるいは人工芝と天然芝のハイブリッド芝で、完全密閉型の建物になるそうです」
──屋内で人工芝のラグビー場ですか……。
「世界を見渡せば、人工芝やハイブリッド芝のラグビー場はあるにはあります。昔は人工芝だと、摩擦でやけどをすることも多かったが、今の技術だと問題ないのかもしれません。しかし、これでは『ラグビーもできる多目的施設』です。果たして今の秩父宮ラグビー場を壊してまでつくる必要があるのでしょうか」
──秩父宮を聖地とするラグビー協会は反対はしていないのですか?
「少なくとも、移転の流れを見る限りは、この計画を認めてしまっているとしか思えない。協会が知らなかったはずはないと思うので……。いま、ラグビーはボランティアをはじめ、現場の方々が熱心な競技普及を行っており、日本代表も前回の2019年W杯(日本大会)で初のベスト8。今年のフランスW杯でも期待されている。そんな時だからこそ、ラグビー協会が率先して普及活動の先頭に立たなければいけないはずです。それなのに1万人減のラグビー場では人気を高めるどころか、『こぢんまりでいいんじゃないか?』という諦めすらも感じてしまう。それはラグビー経験者として、看過できません」
──署名プラットフォームでは、甲子園球場の改修に触れていますね。
「甲子園球場も老朽化が進んでいましたが、プロ野球のオフシーズンの改修工事で今の形に生まれ変わった。秩父宮も必要なのは耐震工事やバリアフリー化に向けた工事であって、移転ではありません。神宮外苑の工事に反対している米国人経営コンサルタントのロッシェル・カップさんも話していましたが、『そもそも秩父宮を改修しようとしていたのか』と。どうも改修にかかる費用の試算もせず、初めから秩父宮や神宮球場を含めた神宮外苑の移転工事ありきで進んでいたようです」