暑い名古屋の稽古場で弟子を引き締めた「鬼流」二子山親方の活

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 駆け出しの頃に通った相撲部屋で、今も同じ場所で同じ部屋が続いているのは、もう出羽海部屋と春日野部屋くらいしかない。地方場所も同様で、1980年代後半あたりから、貸してくれる寺が減るなどの事情で、宿舎の移り変わりが激しくなっていった。

 名古屋場所では、名古屋市天白区の仏地院によく通った。「土俵の鬼」元横綱初代若乃花の二子山親方(円内)が、日本相撲協会の定年まで宿舎を構えた寺だ。80年代初めは横綱2代目若乃花、隆の里、若嶋津(現荒磯親方)、太寿山(現花籠親方)、隆三杉(現常盤山親方)ら関取衆がひしめき、強い日差しの下、境内の土俵で猛稽古を繰り広げた。

 二子山親方は稽古を熱心に見る人で、じっと目を凝らしては「残らんか!」などと野太い声を飛ばす。緊張感が張り詰める稽古には連日、近所などから多くの見学者が集まった。

 そんなある日、親方がおもむろに見学者を見渡して言った。

「きょうの客は運がいいぞ。こんなにいい稽古を見られるんだから。めったに見られないぞ」

 確かに顔ぶれは豪華だが、いつもと変わらないはず。はて? と思っていると、それから稽古ぶりが明らかに引き締まった。

 実はその日、力士たちはいまひとつ気が乗っていなかった。師匠が厳しいとはいえ、力士も人の子。体調の波もある。親方は遠回しに気合を入れたのだった。

 そうかと思えば、「どうも調子が悪い。二日酔いだな。ワシはもう風呂に入る」などと言って、途中で席を立った日もある。

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