「主将のつもりで引っ張る」岡田監督の知られざる功績 虎選手会長時代に勝ち取った裏方の好待遇
陰で支える裏方の待遇を大改善
実は、この虎の裏方の好待遇は、岡田監督が選手会長時代に勝ち取ったものだった。契約更改の席では自らの交渉は二の次。チーム一丸となるため、陰で支える裏方の待遇改善を必死になって訴え続けた。
年俸はもちろん、新幹線の移動も普通車からグリーン車。宿舎も一流ホテル。選手と同じ待遇とするよう懇願した。悲哀を味わってきたベテランの裏方は「オカがなぁ。おれらのためにいろいろと動いてくれて。ほんま、いいやつやで」と感謝していたものだ。
そんな岡田監督が実現した裏方の待遇改善のひとつに、チーム報奨金があった。当時は成績にかかわらず1勝につき2万円。5勝、10勝、15勝……と、5勝単位で達成した試合後に現金10万円が支給されるシステム。仮に勝率5割のシーズン65勝で終えても、計130万円がゲットできた。岡田監督はこれをマネジャー、打撃投手・捕手、トレーナー、通訳らチームに同行する裏方にも門戸を広げたのだ。
24勝、34勝……勝利数の下ひと桁が4で迎えた試合は、選手や裏方たちが「よっしゃ。きょうはリーチや。ツモるぞ」と不思議なセリフで盛り上がる。調べて“猛虎の活力源”という記事にすると、岡田監督にニラまれた。その理由はいかにも選手会長らしいものだった。
「あのな。おれらと違い小遣いの少ない裏方にとって、貴重なキャッシュなんやで。家にばれて、嫁さんに取られるかもしれんやんか。そのあたりも考えて書かんとな」
現在の岡田監督は、監督賞というニンジンを持つ。大仕事をやってのけた選手に基本10万円をポケットマネーから授与。ロッテ・佐々木朗を倒した4日の試合では、推定年俸1900万円の才木が完封し、同1億6000万円の梅野がダメ押し。「なんぼ梅野がホームラン打っても、そら才木やろうなあ」。高給取りより薄給の若トラに比重を置くのもオカダ流だ。
岡田監督はキャンプ中の胴上げを受け入れてくれない。ホームランを打っても首に虎メダルをかけてくれない。こぶしを突き上げる岡田ガッツのポーズもつくってはくれない。若い虎ナインには物足りない指揮官かもしれないが、その代わりに将来の財産となるものをたくさん教えてくれる。
勝つための戦術と用兵。根拠と準備。「アレ」への階段。こんな野球があるのかと、猛虎ナインはプロの神髄を楽しんでいるに違いない。そして「このおっさんについていけば、必ず『アレ』にたどり着けるぞ」と確信していることだろう。 (おわり)
(長浜喜一/スポーツライター)