「おいおい、壊さんでくれよ。ワシの家やが」初代増位山の一言が示した部屋制度の根幹

公開日: 更新日:

 北の湖の現役晩年に序盤で黒星が先行し、もしや引退かと、取組後に報道陣が三保ケ関部屋へ押し掛けていた頃だった。師匠(元大関初代増位山=写真)が応対するというので、記者たちが上がり座敷へなだれ込んだ時、ガシャンと音がした。誰かが床の間の何かに触れたようだ。親方が音のした方をじろりとにらんだ。

「おいおい、壊さんでくれよ。ワシの家やが」

 ドスの利いた声とともに、相撲部屋は私有財産だという部屋制度の根本が、駆け出しの頭にたたき込まれた瞬間だった。

 北海道の「怪童」と呼ばれた北の湖は、幾つもの部屋から誘われたが、手編みの靴下をくれた三保ケ関親方の弟子になった。その師匠が日本相撲協会定年の翌年に亡くなった時は、同じ日の近い時刻に実父も亡くなる数奇な不幸に遭いながら、師匠の葬儀を優先した。部屋制度の根幹がここにもうかがえる。今では地価高騰や部屋継承の経緯などから、土地建物が賃貸の部屋が珍しくない。やむを得ず「通い」になる師匠もいる。だが、形態はどうあれ自前で確保するのだから、部屋の存廃は一筋縄ではいかない。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇