「おいおい、壊さんでくれよ。ワシの家やが」初代増位山の一言が示した部屋制度の根幹
後継者不在や師匠の急死などで部屋が閉じられる場合は、一門内で事情を察し、弟子が相撲を続けられるようどこかが受け入れて収まるとはいえ、これも簡単ではない。
木瀬部屋が不祥事で閉鎖され、一門で理事長でもある北の湖親方が預かった際は、2年後に無理筋を通して再開させたが、預かり中は地方場所で分宿せざるを得ないなどの一面もあった。
物件確保もスカウトも師匠の努力次第。指導者ライセンスがあるわけでなし、協会から学びの支援があるわけでもない。部屋維持費や力士養成費などは出ても、世間の一部でいわれるような「商売」ではない。
宮城野親方(元横綱白鵬)は協会からの力士育成業務委託に反したとはいえるが、委託した側の責任は問われず、協会主導の再教育もなく、「ワシの家」を明け渡せ、別の師匠が「ワシの家」で預かれ、それを少人数の一門で決めろと聞こえる。
入門者が減り続けている。今度は引退後に部屋を持って強い力士を育てたいと思う者も、減らなければいいのだが。
▽若林哲治(わかばやし・てつじ)1959年生まれ。時事通信社で主に大相撲を担当。2008年から時事ドットコムでコラム「土俵百景」を連載中。