「ライアー」大沢在昌著
■だまし合いの末に知った真実の愛
主人公は、大学教授の優しい夫と私立小学校に通う可愛い息子を持ち、マーケットリサーチ会社で働く女・神村奈々。幸せそうな表向きの顔とは別に、奈々には誰にも知られてはならない大きな秘密があった。
それは、彼女の勤める会社は政府がつくった暗殺組織であり、彼女自身が殺人の才能を持った優秀な工作員であること。仕事は、出張を装った海外で行われ、計画に従って処理作業を済ませた後は、何食わぬ顔をして帰国するのが常だった。ところが、ある日夫が娼婦と思われる女性と一緒に火災に巻き込まれて亡くなったことで、生活が一変。夫は事故で死んだのではなく、何らかの事情で殺されたのではないかという疑いを持った彼女は、長年の経験から生じた予感に突き動かされるようにして、夫の死の謎を解こうとする。果たしてその死の真相とは……。
クールビューティーな女主人公の嘘と愛を描いたアクション・ハードボイルド。殺人に一切の感情を持ち込まない主人公の冷酷なまでの冷静さと、大きな嘘で平穏な家庭を守ろうとする愛の深さの対比が印象的。嘘の先にたどり着いた真相が切ない。