「天の光」葉室麟氏
主人公・柊清三郎は福岡藩の武家の三男に生まれたが、仏師を志し博多の高坂浄雲に入門。腕を見込まれ浄雲の娘おゆきの婿となるが、己の仏像に仏性を見いだせない清三郎はおゆきを置いて京都へ修行の旅へ出る。3年後、成果を得られぬまま博多に戻ると師は強盗に殺され、おゆきは辱めを受け行方不明になっていた。深い悔恨を胸に清三郎はおゆきを救うことに命を賭していく……。
「中学生の頃に、ある仏師が仏像を彫り続けるがなかなか仏様にならない、それがある日突然、仏になるという物語を読んだんです。子どもながらにそういうことは実際にあるのじゃないかという思いがずっとあり、いつか書いてみたかった」
本書のもうひとつの柱は、ストレートな愛。
「一直線な愛を書いてみたいというのがまず最初にありました。取り返しのつかないことをしでかしてしまった男が、取り返さなくてはいけないと愚直に突き進んでいく。そういう一直線な純粋さですね」
家族を捨ててまで自分の彫る木に仏性を見いだしたいと願う清三郎は、純粋ではあるが、一方でひどく利己的に見える。