「リオとタケル」中村安希氏
70年代から90年代にかけてアメリカの演劇界でデザイナーとして活躍し、今なお人々からの信頼厚いリオとタケルというゲイカップルを追ったノンフィクションである。
「リオは私の学生時代の恩師で、とにかく誰からも好かれる人でした。かくいう私もその一人で、卒業してからも何かとまとわりついていた(笑い)。一言でいうと一人の人間として他に類を見ない魅力があるんです。彼はその魅力をどのように身に付けたのか、私はなぜこんなに彼に引かれるのかを知りたかったのが取材を始めたキッカケです」
リオの人生を追ううえで、抜きにして語れないのがリオと38年間共に暮らすパートナーである日本人のタケルだ。
著者は日米を行き来し、2人の家族、友人、同僚といった周縁を3年かけて取材した。そこから見えてくるのは、ゲイを公表して生きる彼らが、オープンな人間関係を構築し、前向きに思考し、アーティストとして、教師として必要とされる人材であり続けるために努力する姿だった。
「互いに思いやり、強い信頼関係で結ばれています。そして、究極のいい人になることが彼らの生きる武器であり、2人が圧倒的に楽しそうに、幸せに生きることで周囲を説得したんですね。私は取材中、彼らと暮らしましたが、ゲイのイメージ、例えば社会の差別と闘うとか、どちらかが女性役であるなどとは随分違っていたのも驚きでした。学生時代から彼らがゲイだとは知っていましたが、至って普通で自立した大人の男性が2人いるとしか見えない。日本の草食系男子の方がよほど女性っぽいですよ」