「神の子」薬丸岳
振り込め詐欺のシナリオを作っていた青年がいる。彼が捕まって少年院に入るまでがプロローグ。そこを脱走するも失敗するまでが第1章。ではその後、この上下2巻本はどう展開していくのか。
その前に、主人公の青年に戸籍がなく、義務教育を受けたこともなく、しかし天才的頭脳の持ち主であることを書いておかなければならない。そういう特殊な生い立ちの青年がその後、どういう人生を歩んでいくのか。闇社会と手を切って少年院に入るという経緯はあるものの、詐欺グループを仕切っていた室井とかアカギとか妙に存在感のある人物がプロローグに登場していたことを考えると、彼らが再登場するのは必至であると思える。では、主人公の青年はその闇社会にふたたび入っていって、のしあがっていく人生を描いていくのか。これはそういうクライムノベルなのか。
第2章から始まるのはまったく意外な展開である。主人公の青年はなんと大学に通っているのだ。で、大学内の友人たちと会社を立ち上げるからびっくり。誤解されないように急いで書いておくと、それは詐欺会社ではない。若者たちの夢の会社である。それに町工場まで絡んできて、池井戸潤の小説のような展開もあり、おお、盛りだくさんだ。