「モロッコ流謫」四方田犬彦著
「モロッコは驚異と謎そのもの」と、たびたび訪ねてはその謎を見つめてきたが、謎は深まるばかりで、核心に触れることができないと語る著者による紀行エッセー。高校のときにレッド・ツェッペリンの曲で初めて耳にし、映画でスクリーンを通して見たタンジェの村。ロラン・バルトなど多くの著名人をとりこにしたこの村に長年暮らす作家で作曲家のポール・ボウルズとの交流を追想、その作品について論じる。さらにフェズからマラケシュへと向かうバスに乗りながら初めてモロッコを訪ねたときに知り合った三島由紀夫の弟で大使だった平岡千之との出会いを振り返るなど、紀行と文学論が融合した各賞受賞の名作。
(筑摩書房 950円)