「失踪都市 所轄魂」笹本稜平著
主人公は、警視庁捜査1課という花形部署から、城東署の刑事・組織犯罪対策課にやってきた葛木邦彦。仕事にのめり込み家庭を妻まかせにしていた3年前に、妻がくも膜下出血で倒れて帰らぬ人に。喪失感に襲われた邦彦は、所轄への異動を自ら申し出た。息子の俊史も同じ警察官の道を歩んでいるが、出世に見切りをつけた邦彦とは対照的にキャリア組として27歳にしてすでに警視となり、着々と出世街道を歩んでいる。
そんなある日、以前老夫婦が住んでいた空き家で男女の白骨死体が発見された。当初、老夫婦が老老介護の末に衰弱死したのかと思われたが、殺人事件の疑いがあることもわかってくる。しかも、ほかに何組もの高齢者が行方不明になっていた。邦彦は息子とともに捜査に乗り出すが、なぜか上層部は捜査妨害を始める。事件の真相に迫ろうとするふたりは、失踪事件の先に何を見つけたのか……。
官僚社会と化した警察組織のなかで、身の危険を感じながら真実を追求する親子の格闘が秀逸。出世主義を捨てた主人公の所轄刑事としてのプライドが光る。
(徳間書店 1650円)