「フォルトゥナの瞳」百田尚樹著
主人公は、幼い頃に両親と妹を亡くし、孤独に生きてきた木山慎一郎。中学卒業後勤めていた工場が倒産し、フリーター生活を続けていたところ、車を磨くコーティング会社の社長に拾われる。結婚もせず恋人をつくることもあきらめたまま、ひたすら仕事に没頭する日々だったが、ある日電車の中で手が透き通っている男を見かけてから、どうやら自分には他人の死の予兆を察知する力があるらしいと気づく。木山は、その力を他人の命を助けることに使おうとするが、人を救うたびに自らの体がむしばまれていく。仕事の腕も認められて無事に独り立ちを果たし、恋人もできてようやく幸福が見えてきた矢先、木山は自分の力をどう使うべきなのか、選択に迫られるのだが……。
本書は、ローマ神話に出てくる人間の運命が見える女神「フォルトゥナ」の瞳を持ってしまった人間が、他人の運命に介入して死を回避できないかと葛藤する物語。
他人の命を救って誰にも気づかれないばかりか、自己犠牲まで伴う場合にどんな選択が可能なのか。ひとりの人間として自分の有限の命をどう使うのかと読者に問いかけてくる。