「桃のひこばえ」梶よう子著
御薬園同心水上草介、との副題通り、草花の知識をいかしながら人々の悩みを解きほぐすのんびり屋の同心、水上草介を主人公とするシリーズの第2弾。
どのくらいのんびりしているかというと、誰かが冗談を言って皆が笑い終えたのちに、一拍置いてから、ひとり噴き出すくらいだから、のんびりというよりも、著しく反応が遅いといったほうがいい。水上なのに水草と言われたときも、同心長屋へ戻り、夕餉を食っている最中に、「もしや芯がなさそうなという意味か」とようやく気がつくほどだから、頼りないというほうが正確かもしれない。
しかし読めば誰もがこの男を好きになる。それは草花への愛が突出しているからだ。そのケタはずれの愛がのんびり屋に芯を与えている。今回は、しっかり者で堅物の吉沢という見習同心が登場して、水上草介と対比されるのがキモ。
吉沢は「御薬園同心は私の本意ではありません」と言うのだ。これが武士としての仕事なのかと憤慨するのである。はたして水上草介のケタはずれの愛は、この堅物の固い心を解きほぐすことが出来るだろうか。