「ピルグリム」(1~3)テリー・ヘイズ著、山中朝晶訳
1巻の帯には「悪魔のテロ計画を阻止せよ」とあり、2巻は「伝説のスパイが追いつめる!」、3巻は「悪魔と伝説、対決の時!!」と大きな惹句が付いている。悪魔のような男がテロを計画していて、それを伝説的なスパイが追いつめるんだな、とわかる。なんだかつまらなそうだ。これまで無味乾燥な謀略スパイ小説をたくさん読まされてきたから、これもそういう物語であるように思える。だから最初は食指が動かなかった。先に読んだ知人の「ちょっと面白いよ」という感想を聞かなければ、手に取らなかったかもしれない。
結論から書くと、帯の惹句に嘘はない。本当にその通りの話だ。ただし、もっと豊穣で、色彩感豊かで、奥が深い。だから、ずんずんと文庫3巻を一気読みである。
サラセンと呼ばれるテロリストの計画が読者に知らされるのが第2巻の冒頭。つまり、その全貌はなかなか明かされない。これが本書の最大の特徴といっていい。ではその間、何をしているかというと、サラセンがなぜそういう計画を立てるに至ったかという彼の半生が描かれていく。あるいは、サラセンを追いつめる主人公の半生がさまざまな回想を挿入して描かれていく。さらに、ニューヨーク市警のブラッドリー警部補の人生も語られていく。そういうふうに人間のドラマを丁寧に描いて、積み上げていくので、物語にどんどん奥行きが生まれてくる。一気読みしてしまうのはそのためだ。(早川書房 各860円)