読書の達人に学ぶ編
ジャーナリストの立石泰則氏は好きな作家の全作品を読破しているが、松本清張の芥川賞受賞作品「或る『小倉日記』伝」を読んで感銘を受け、2冊目に処女作の「西郷札」を選ぶ。西郷札とは西南戦争のとき、軍需物資調達のために西郷軍が作ったお札のことだ。芥川賞受賞作品の方が完成度は高いが、処女作には「自分が書かなければ誰が書く」という気迫があふれている。
フリーライターの井上理津子氏は、酒席で福島県出身者から「阿武隈地方では最高級のあんぽ柿を天ぷらにする」と聞いて、農林水産の専門図書館、農文協図書館で農山漁村文化協会の「聞き書 福島の食事」を手に取った。確かに〈干し柿の天ぷら〉がある。事務局長が「宮本常一講演選集」(農文協)にも書かれていると教えてくれた。それによると、女性が嫁入りのときに渋柿を植え、柿渋を防腐剤として利用したり、死ぬとその枝で火葬する風習があるのだとか。柿の木が女の一生に寄りそうことを知って、心が熱くなった。
そういう、心を熱くしてくれる〈次の本〉はあなたが選んでくれるのを待っているのだ。
(苦楽堂 1800円)