【年末に読みたい珠玉の時代・歴史小説】「風の如く 吉田松陰篇」富樫倫太郎著
明治維新を成し遂げた人材の「火薬庫」となった幕末の長州藩、松下村塾を舞台に描く時代青春小説。
15歳の平九郎は、武家の長男だが、訳あって萩から移り住んだ篠目村で畑仕事の手伝いをして家族を支えていた。ある日、平九郎は村を訪ねてきた白井小助という男と知り合う。
長州藩寄組の浦家に仕え、同家が開いた学校で教授を務める小助は、1年前まで明倫館で学んでいた平九郎の向学心に感動し、その足で平九郎を萩に連れ出す。平九郎が連れて行かれたのは、松本村の吉田松陰の私塾・松下村塾だった。
幕府の咎を受け、3年前の安政元(1854)年に江戸から護送され、今も自宅蟄居が続く松陰は、周囲から「狂人学者」と呼ばれていた。平九郎はそんな噂とは異なり、真剣に国の行く末を案じる松陰の学問への姿勢に圧倒される。入塾を許された平九郎は、居合わせた塾生の伊藤俊輔や久坂玄瑞らにも刺激をうけ村に帰る。
しかし、祖父の治左衛門は平九郎が松陰を訪ねたことを知り烈火のごとく怒り、借りてきた書物も危うく囲炉裏に投げ入れられそうになる。祖父の許しも出ず、日々の仕事に追われ、なかなか松陰を訪ねることができない平九郎を、久坂が訪ねてきた。久坂は、自分が1日仕事を代わるから塾へ行き学問をしろと平九郎にいう。