原発利権と地方の現実が題材 最新作「雪炎」の馳星周氏に聞く
以降、浜岡原発だけでなく、北海道・泊原発や福井県の美浜原発など、日本各地の原発のある自治体を訪ね歩いたという著者。そこで目の当たりにしたのは、経済が下降線をたどる一方の町の現実だった。
「廃れる寸前の町に、原発を誘致して大量の金をばらまく。これで息を吹き返すように見えますが、原発からの固定資産税も減価償却に伴い減っていきます。財政が立ち行かなくなった頃、“2号基を造りませんか”という悪魔のささやきが聞こえる。地元の住民は、原発が動かないと経済がダメになると思い込まされていますが、原発が稼働していた頃だって経済は正しく回っていなかったのだから、長い目で見れば原発があっても何も変わらない。むしろ、原発があるだけで福島のようなリスクを背負うわけです」
物語は、和泉の中学の同級生で、原発の廃炉を公約に掲げて市長選に立候補する左翼人権弁護士の小島や、和泉と小島を監視する警察、反原発派を全力で潰しにかかる政権与党などが入り乱れ、凄まじい暗闘が繰り広げられていく。
「利権に群がる人々の思惑や、それにすがるしかないと信じ込まされている地方の現実は、都会に暮らす人にこそ知ってもらいたいんです。私自身は、原発には反対です。しかし、やみくもに反対を叫ぶことは無意味だと思っている。東京で必要以上に電気を使いながら、地方選挙で原発推進派が勝つと“あいつらバカじゃねぇか”などとあざ笑う。その矛盾から目を背け、原発がある自治体の現実を知らずにただ騒いでいても、日本から原発はなくなりません」