ブレークダンス、ラップ、DJと80年代若者文化の絵巻物
「ヒップホップ・アメリカ」ネルソン・ジョージ著
最近の報道によれば2060年にはアメリカで「少数派が多数派になる」見込みという。ヘンな言い草だが、要は白人以外のマイノリティー人口の合計が過半数になるわけだ。だが文化の面、特にポピュラー音楽などはとっくにマイノリティー発が優位を占めている。
そんな時代の“起源”をしのばせるのが、来週まで都内限定公開中の映画「ワイルド・スタイル」だ。
1982年、NYサウスブロンクスを舞台に、グラフィティ(落書き)アーティストとして注目され始めた若者を主人公として、周囲の若者たちのブレークダンスやラップ、DJなどを絵巻物さながらに紹介してゆく。低予算の劇映画なのだが、大半がロケ撮影のせいもあって、いま見るとまるで80年代をよみがえらせるドキュメンタリーのようだ。
そういえば、当時、サウスブロンクスは絶対行ってはいけない場所の代名詞だった。だが、人種差別や右翼テロが横行する現代から見ると、むしろ素朴なほど平和で健全そうなのが感慨深い。
ネルソン・ジョージ著「ヒップホップ・アメリカ」(ロッキング・オン 1900円+税)は「ブラック革命」の60年代から現在にいたる黒人解放史のなかにヒップホップ文化を位置づけようとする古参の音楽評論家の書。「アメリカ版団塊世代」らしい小言や説教が満載で、そこがかえって愛嬌なのがおかしい。〈生井英考〉