デジタルが支える、レトロな「味」
さて、表紙のロゴマークは、透明でツヤあり、しかもそこだけ紙面から盛り上がって見える。バーコ印刷。特殊な樹脂粉末を印刷面が乾かぬうちに吹き付け、さらに熱処理。これまた独特の質感を得るための技法だ。
スミ1色で刷られた本文はシンプル。だが、文字はかすれて何やら怪しい。版元によれば表紙も含め丸ごと「レトロ印刷」なる技法で刷られているとのこと。シルクスクリーンやガリ版など「孔版印刷」の一種。かすれ具合が「活版印刷」を思わせる。
懐古的な「質感」満載の本書だが、制作の工程は驚くなかれ、ネット経由で発注、入稿、校正、納品まで完結する「システム」のたまものだという。今日の映画同様、アナログとデジタル技術の競演に一本とられたの巻、である。(engine books 2500円+税)
▽みやぎ・あずさ 工作舎アートディレクター。1964年、宮城県生まれ。東北大学文学部仏文科卒。1990年代から単行本、企業パンフレット、ポスター、CDジャケットなど幅広く手掛ける。