「たとえ、世界に背いても」神谷一心著
物語は、ある奇病の治療法を発見した論文でノーベル医学・生理学賞を授与された浅井由希子博士による晩餐会のスピーチから始まる。
最初、病気の息子のためワクチン開発に全力で取り組んだことが語られ観衆から万雷の拍手を受けたが、息子がいじめを苦に自殺したことも告白。復讐のため、研究過程で見つけた強毒性の病原体を世界中に拡散したと宣言する。治療用ワクチンの生成方法を知りたければ、クラスメートを捕らえて真実を明らかにしてから、全員を殺せと脅迫したのだ。
罹患者が爆発的に増えるにつれ、前代未聞の無差別テロの被害を恐れた世界中の人々から、元同級生の23人の高校生が狙われるようになる。果たして彼らの運命は……。
本書は、第7回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。息子を失った母親の壮大な復讐劇をベースに、追われる女子生徒を助けようとする少年を登場させることで、迫害を受けても多数派に異議を唱え抵抗を続ける者への希望も描いている。(講談社 1700円+税)