「うらやましい人生」ミッツ・マングローブ著
「何にも縛られず、自分に正直で、堂々と生きているミッツさんて、うらやましい!」
そんな言葉を投げかけられると、伸ばした背中を丸めたくなる。だって「男のできそこない・女のなりそこない・ゲイの落ちこぼれ」という3種盛りの完成形が私なのだから──。
40歳になったミッツ・マングローブの自伝。子ども時代、ロンドン暮らし、音楽、女装人生、恋愛などについて語り、「普通ではない」人生を初めて明かした。
本名は徳光修平。父親は伊勢丹の宣伝部、母親は元博報堂のコピーライターで、生家は横浜。ハイセンスなイケイケ夫婦の間に生まれた修平は、体が大きく、言葉も早く、いわゆる「賢い坊や」だった。紛れもない男として生まれ育ちながら、成長するにつれて、普通ではない自分に戸惑う。
「僕」や「俺」が言えない。男の服が似合わない。セクシュアリティーは「男として同性が好きな同性愛者」。女の心を持っているわけでもなければ、女になりたいわけでもない。しかし、小さいころからの女装癖は強まるばかり。「女装が好きな男性同性愛者」という立ち位置は複雑だ。ロールモデルのない人生をひとり手探りするうちに、徳光修平の存在がだんだん薄くなり、ミッツ・マングローブに取って代わられることになる。