認知症で年間1万人が行方不明となる日本の異常
NHK取材班著「認知症・行方不明者1万人の衝撃」(幻冬舎 1600円+税)は、昨年放送されたNHKスペシャルの書籍化。どこの誰かも分からぬまま、行方知れずとなるか、あるいは命を落とす。そんな高齢者が年間1万人もいるという現代日本の異常な実態をリポートしている。
同局が取材を始めたのは2013年のこと。警視庁が公表している〈行方不明者の状況〉という統計情報を目にしたことがきっかけだった。そこには行方不明の原因が一覧表で示されており、12年の統計では「認知症または認知症の疑い」とされた人が9607人にも上っていたのだ。
本書では、行方不明者の家族にも多数取材を行っている。例えば、東京都稲城市在住の吉澤マユミさん(74歳)。12年3月26日の午後6時過ぎ、認知症による徘徊の症状があった夫の賢三さん(76歳)が行方不明になってしまった。近所の駐在所や消防にも連絡したが、一向に見つからない。多摩中央警察署にも捜索願を届けたが、事件性はないので捜査は難しいと言われたという。
家族でチラシを作り、配って歩いた。身元不明のケガ人が運ばれていないか、近隣の救急病院も訪ね歩いた。しかし3週間後、自宅からわずか500メートルの民家の、住人も立ち入らない雑草が生い茂る敷地の片隅で、賢三さんは遺体となって発見された。検視の結果、死因は凍死であったという。