「大石芳野写真集 戦争は終わっても終わらない」大石芳野著

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 一見すると、どこにでもいそうなおじさん、おばさん、おじいさん、おばあさんなのだが、その相貌の奥深くに簡単に言葉では表すことができぬ壮絶な記憶や体験が刻まれている。

 戦没者の半数が家族や親族同士が殺し合った「自決」だったという座間味島や、西表島への強制移住でマラリアに罹患し島民の90%以上が亡くなった波照間島など、八重山諸島で起きた悲劇にも触れる。

 日本軍の軍曹に夫らを虐殺され放火された久米島の小橋川カマさん(10年生まれ)の「戦争中のことは一日も忘れたことがない。でも、言わないようにしている。話すと周りが暗くなるから」という言葉が、戦争体験者たちの70年の日々を代弁しているかのようだ。

 一方で、著者のカメラはコリアン従軍慰安婦など、日本軍によって蹂躙された外国の人々や戦跡にも向けられる。中国ハルビンの郊外ピンファンで新兵器開発のため人体実験を行っていた通称「七三一部隊」の研究施設の遺構には、まさにアウシュビッツ強制収容所と同様のおぞましさを感じる。


 もはや戦後ではなく、戦前の様相を呈してきた日本。いま一度、彼らの声に真摯に耳を傾け、その70年の日々に思いを馳せなければならない。(藤原書店 3600円+税)

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