「大石芳野写真集 戦争は終わっても終わらない」大石芳野著
70年を経ても、体験をした人にとって戦争は決して過去の出来事ではない。本書は、国内外で戦争や災害に直面した人々を撮影してきたフォトジャーナリストの著者が、戦争の傷痕を抱き続けながら生きている人々を撮影した作品を編んだ写真集だ。
8月9日、長崎で爆心地から800メートル離れた防空壕で被爆した下平作江さん(1935年生まれ)。一緒にいた母と姉は黒焦げになって即死、兄も3日後に息絶えた。差別に苦しんだ妹は10年後に列車に飛び込み自殺。その遺体をリヤカーに乗せたまま、自分も列車に飛び込もうと列車を待っていたときに兄の友人に声をかけられ、踏みとどまったという。
後にその人と結婚し、子どもにも恵まれたが、今も妹の名前を口にすると涙があふれるそうだ。
学徒動員で広島の爆心地から530メートルの郵便局で勤務中に被爆した寺前妙子さん(30年生まれ)は、左目が飛び出すほどの大けがを負い、顔の整形手術をこれまで3回受け、今も子宮がんや乳がんなど次々と襲ってくる病と闘い続ける。
他にも、5歳のときに水頭症と診断された畠中百合子さん(46年生まれ)ら胎内被爆者や、瀬戸内海に浮かぶ大久野島で毒ガス製造に携わっていた作業員、第五福竜丸の乗組員、そして東京大空襲や沖縄戦で九死に一生を得た人々まで。ポートレートとともに各人の戦争体験とその後の人生が短い言葉で紹介される。