「獄中で聴いたイエスタデイ」瀧島祐介著
1980年1月16日、コンサートのため来日したポール・マッカートニーは、マリフアナ不法所持で現行犯逮捕、成田空港から警視庁に送られ、勾留された。ちょうどその時期、バリバリの極道だった著者は殺人罪に問われて雑居房にいた。ポールの房とはわずか数メートルしか離れていなかった。
「ポール! ハロー!」。運動場に現れたポールに、著者は臆することなく話しかけ、同じ雑居房のインテリ過激派の通訳で言葉を交わす。スーパースターは驚くほどフランクだった。
ある晩、ポールに向かって叫んでみた。「ポール! 『イエスタデイ』プリーズ!」。すると、「OK!」と声がした。手と足で床をたたいてリズムをとると、ポールは歌い始めた。その歌声は、極道の魂を揺さぶった。
それから長い道のりを経て更生し、今はカタギの生活を送っている。獄中ですっかりファンになったポールの人生をからませながら、波乱に満ちた半生を振り返った自伝。
中学のとき、父親が嫌で家出して、不良仲間に入り、極道へまっしぐら。40歳のとき、拳銃密輸にからんでフィリピンで仲間を射殺、15年の実刑を受けた。出所後、流されるまま極道の世界に舞い戻るが、心の隅にはいつも獄中で聴いたポールの歌と、運動場で交わした言葉があった。「今度、遊びに行っていいか」「カタギになって遊びに来るのなら、空港まで迎えに行くよ」