「わたしの土地から大地へ」セバスチャン・サルカド/イザベル・フランク著 中村勉訳
セバスチャン・サルガドはブラジル出身の写真家。発展途上国を旅して、貧困、飢餓、難民、過酷な労働の現場などを撮った作品で知られている。
1944年、豊かな森に囲まれた農園に生まれたサルガドは、夢のような少年時代を過ごした。サンパウロ大学で経済学を学んだ後、軍事独裁下の祖国ブラジルを脱出、パリに赴く。やがて国際コーヒー機関のエコノミストのポストを得て、ルワンダ、コンゴなどアフリカの国々で経済発展計画に携わった。
ところが、若きエコノミストは、高収入とアパルトマンとスポーツカーを捨てて、写真家への転身を決意する。建築を勉強していた妻が建物撮影用に購入したカメラの魅力にはまったのは、夫のほうだった。
写真という天職にめぐり合ったサルガドは、故郷であるラテンアメリカをはじめ、アジア、アフリカと、世界中を旅することになる。サルガドがフィルムに収めたのは、働く者の泥まみれの手。枯れ枝のような足で砂漠を行く放浪民、内戦から逃れてきた難民の群れ。ルワンダの惨劇……。労働の現場で、難民キャンプで、何週間も生活をともにしながら、「事」ではなく「人間」を撮る。この自伝の聞き書きをしたジャーナリスト、イザベル・フランクは、まえがきの冒頭に書いている。「セバスチャン・サルガドの写真を見ることは、人間の尊厳を体験するということだ」