“製本に技あり”のオブジェ本
「モーション シルエット」かじわらめぐみ、にいじまたつひこ著
本の設計を仕事にしていても、「立体構造物としての本」と「光」の関係を忘れてしまうことがある。
例えばページをめくる途中、照明の光が当たれば反対側に「影」が落ちる。光が強ければ強いほど濃い影になり読みづらくなる。この場合、「ライトを調節する」などの「対策」を講じるのはたやすい。しかし想像力を存分に発揮して、光量不足という不利な状況を、本書のような「アートの表現装置」へと転換するのは至難の業だ。
「光が揺れると影も揺れる。これは世界のつつましい横顔です。(谷川俊太郎)」
2015年度世界で最も美しい本コンクール銅賞受賞。本を開くと、型抜き加工やレーザー加工された「木」「鳥」「お化け」などの「切り絵」が見開き中央に立ち上がる。ここに光を当て、イラスト上の影の「動き」を楽しむ趣向。「モーション・シルエット」たるゆえんである。影の形と絵の組み合わせにより、1見開きで2つの物語が出来上がる。
今回入手したのは、手製本で制作した「1点もの」を、技術的な改良を加え量産に対応した「普及版」。原著のアイデアやオリジナリティーもそのままに、気負わず楽しめる一冊に仕上がっている。造本の工程の開発も含め、企画から納品にいたる一連の流れが新規の「作品」として結実。うらやましい限りである。