癒し系キャラの“心”に迫る
「えのすい 愛しのクラゲたち」新江の島水族館著
クラゲの美しいスケッチといえば、20世紀初頭に出版された、ドイツの生物学者、E・ヘッケルの「生物の驚異的な形」が思い浮かぶ。「対称性と秩序」に着目しクラゲの「体の構造」を解き明かす歴史的名著だ。一方、100年以上の時を経て出版された本書のスタンスは一線を画す。
「クラゲの心をのぞいてみたいと思うこと。それは、自分以外のだれかのことをもっと深く知りたいと思うこと」(エピローグから)
両著作とも、対象を「集めて分類」する「博物学」の枠組みに収まっている。だが、本書で注目すべきは、美しい写真を通してクラゲへの「愛」や「共感」を呼び起こし、読者の「気持ち」に揺さぶりをかけようとしていることだ。こうしたアプローチは、アカデミック(学問的)であることにとらわれない、今日の「オープンな水族館」の姿に相通ずるものがある。ちなみに、今ではすっかり「癒やし系キャラ」となったクラゲも、旧・江ノ島水族館の97年のイベントがきっかけとなり、当時の癒やしブームと相まってそのイメージが定着していったとのこと。
四六判、128ページ。クラゲの本らしく、帯には半透明の「片艶白クラフト」を使用、天方向を緩やかな「波形」にカット。本文は見開きごとに1種類のクラゲを紹介。全50種。左ページには「発光するクラゲですが、なんのために光るのかはわかりません。目的もなく光るわけがないなんて決めつけないで」「小さい頃は縞模様はありません。変化することこそ成長のあかし。恐れず変化して、すてきな大人になろう」など「クラゲ目線」の印象的なコピーが並ぶ。これらは実際の展示解説として使われ一部の観覧者の間で話題になった。