著者のコラム一覧
宮城安総工作舎アートディレクター

1964年、宮城県生まれ。東北大学文学部仏文科卒。1990年代から単行本、企業パンフレット、ポスター、CDジャケットなど幅広く手掛ける。

癒し系キャラの“心”に迫る

公開日: 更新日:

「えのすい 愛しのクラゲたち」新江の島水族館著

 クラゲの美しいスケッチといえば、20世紀初頭に出版された、ドイツの生物学者、E・ヘッケルの「生物の驚異的な形」が思い浮かぶ。「対称性と秩序」に着目しクラゲの「体の構造」を解き明かす歴史的名著だ。一方、100年以上の時を経て出版された本書のスタンスは一線を画す。

「クラゲの心をのぞいてみたいと思うこと。それは、自分以外のだれかのことをもっと深く知りたいと思うこと」(エピローグから)

 両著作とも、対象を「集めて分類」する「博物学」の枠組みに収まっている。だが、本書で注目すべきは、美しい写真を通してクラゲへの「愛」や「共感」を呼び起こし、読者の「気持ち」に揺さぶりをかけようとしていることだ。こうしたアプローチは、アカデミック(学問的)であることにとらわれない、今日の「オープンな水族館」の姿に相通ずるものがある。ちなみに、今ではすっかり「癒やし系キャラ」となったクラゲも、旧・江ノ島水族館の97年のイベントがきっかけとなり、当時の癒やしブームと相まってそのイメージが定着していったとのこと。

 四六判、128ページ。クラゲの本らしく、帯には半透明の「片艶白クラフト」を使用、天方向を緩やかな「波形」にカット。本文は見開きごとに1種類のクラゲを紹介。全50種。左ページには「発光するクラゲですが、なんのために光るのかはわかりません。目的もなく光るわけがないなんて決めつけないで」「小さい頃は縞模様はありません。変化することこそ成長のあかし。恐れず変化して、すてきな大人になろう」など「クラゲ目線」の印象的なコピーが並ぶ。これらは実際の展示解説として使われ一部の観覧者の間で話題になった。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…