次世代電池を巡って激化する開発と諜報活動の舞台裏
スティーヴ・レヴィン著、田沢恭子訳「バッテリーウォーズ」(日経BP社 2000円+税)は、先進諸国で激化するリチウムイオン電池の開発競争の舞台裏を明らかにしたノンフィクション。“バッテリー・ガイ”と呼ばれる研究員たちによる技術のしのぎ合い、政府の思惑、そして諜報活動などが生々しく描かれている。
物語の始まりは2010年夏。アメリカのアルゴンヌ国立研究所に、中国政府の科学技術部長を務めるワン・ガン氏が視察に訪れた。アルゴンヌ国立研究所は、ニッケル・マンガン・コバルトを組み合わせた新しい複合材料でアメリカの特許を取得し、次世代電池の開発に挑んでいた。そんな重要な場所に、中国科学技術部のトップが視察することをなぜ許されたのか。その背景には、アメリカの置かれた厳しい状況があった。
技術を有しているにもかかわらず、アメリカは当時、ライバル国に大きく後れを取っていた。スマートフォン用のリチウムイオン電池の世界市場では、製造実績で20年のリードがある日本が43%、次いで韓国が23%と、支配的なシェアを占めていた。これら民生用電池の市場に斬り込むためには、アルゴンヌ国立研究所は自らの新技術に加え、ワン氏の視察を利用して中国の情報を探り出し、これを利用することが不可欠だと考えていたのだ。
一方、中国でも次世代電池の開発が急がれていた。リーマン・ショックによる世界経済のメルトダウンが起きたとき、中国も欧米諸国同様に、金融や不動産に頼るのをやめ、実体のあるものを基盤とした経済を築く必要性を痛感していた。そのひとつが電気自動車であり、中国政府は国内の自動車メーカー各社に対し、電気自動車の開発を急がせていた。その核となる次世代電池は、喉から手が出るほど欲しいものだったのだ。
日本の名だたる企業や研究者も登場。緊張感あふれる最先端技術開発の現場を垣間見ることができるだろう。