「永遠の少年 ジャッキー・チェン自伝」ジャッキー・チェン/朱墨著鄭重訳
「大きくなったら何になりたい?」と聞かれて、「飛べるようになりたい」と答えた少年は、大きくなって本当に飛んだ。あるときは高層ビルのガラス張りの面を急降下し、あるときは時計台の頂上から飛び降りた。頭のてっぺんから足の先まで満身創痍。それでも体を張り続ける。観客をあっといわせるために。
命知らずのアクションスターは、1954年、香港で生まれた。本名は陳港生。父はフランス領事の家のコックで、母は下働き。陳少年は、イタズラが過ぎて小学校を退学になるほどのわんぱく少年だった。勉強には向かないと思った両親は、厳しい指導で有名な京劇の学校、戯劇学院に息子を入れた。そこで10年間、激しい稽古と体罰に耐えながら、禁錮刑にも似た共同生活を送る。
京劇人気に陰りが見えていた当時、仲間たちは次々と映画の世界に飛び込んでいった。彼も例外ではなく、17歳で学院を出ると、鍛え抜かれた体と技を武器に、スタントマンの道を選んだ。
ここから先はさらなる波瀾万丈。誰もが尻込みするスタントに挑戦してチャンスをつかむと、ブルース・リー後の新しいカンフースターとしてキャリアを築いていく。稼いだ金を酒と博打と女につぎ込む日々。今がよければそれでいい。次のスタントで命を落とすかもしれないのだから。
そんなメチャクチャな男が、今では自然な思いやりにあふれた大人の風格を見せる。成功も挫折もあった。その半生は奇想天外なエピソードに満ちている。命がけのスタントに入る前の恐怖心や、その最中の心境などもつつみ隠さず語っているので、この自伝を読んでから映画を見直せば、2倍楽しめそうだ。(ダイヤモンド社 2700円+税)