「ようこそ夢屋へ 南蛮おたね夢料理」倉阪鬼一郎著
安政3年の春、おたねと誠之助の夫婦は、芝の伊皿子坂に飯屋「夢屋」を開く。夫婦は上野黒門町で寺子屋を構えていたが、半年前の大地震で被災。預かっていた子供らは助かったが、幼い娘・ゆめを失ってしまった。
傷心の中、被災者の炊き出しを手伝うおたねは、同じく震災で夫を亡くしたおりきと意気投合し、2人で店を切り盛りする。一方の誠之助は、師の佐久間象山が蟄居する信州と江戸を行き来しながら、店のために南蛮わたりの食材を探してくる。そして、白金村の農夫・杉造が毎朝持ち込む産みたての卵や、新鮮な野菜を使った店の名物玉子飯を求める客で、店は賑わいをみせるのだった。
おたねの人柄と料理のぬくもりが人々の心をいやす人情時代小説。(光文社 600円+税)