テロと紛争のいま 世界各地で頻発し始めたテロとどう向き合うか
「イスラム聖戦テロの脅威」松本光弘著
最近のテロ関連書はイスラムやアラブ地域の専門家によるものが多いが、本書の著者は警察庁外事情報部長。つまり日本の諜報機関の現場トップだ。それだけに本書は、イスラム過激派がどのような過程で現在のように過激化したのか、過激派内の主導権争いはどうなっているのかなどを単刀直入に明らかにしていく。
イスラム過激派の歴史的起源は19世紀の西欧植民地体制だが、現代的には1979年、イラン革命が起こった時に始まる。イスラム暦で1400年代の始まりになったこの年、エジプトはイスラエルと平和条約を締結。年末にはソ連がアフガン侵攻を開始した。
エジプトのサダト大統領は裏切り者としてジハード団に暗殺され、アフガン戦争はソ連つぶしの好機とみた米国の介入でアフガン義勇兵の勝利に終わる。だが、ここにイスラム各国の過激分子が流れ込み、やがて米国に牙をむくのだ。
本書を読むと日本がバブル破綻で内向きになっていた90年代、世界には既にテロの大渦が巻き起こり始めていたことがわかる。著者はオウム事件を経験しながらもテロ対策に後れを取る日本を、「法治」ならぬ「放置」国家だと警告している。(講談社 920円+税)