「国宝消滅」デービッド・アトキンソン著
観光ビジネスの強化こそ日本経済の進むべき道
著者はゴールドマン・サックス証券時代に日本の不良債権の実態を暴き注目を集めた金融アナリスト。茶道など日本の伝統文化にも造詣が深く、現在は創立300年を超す国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社の社長を務める。
前著「新・観光立国論」で、人口減少によって労働人口や国内市場が縮小している日本経済にとって観光ビジネスの強化こそ進むべき道だと提言、そのための問題点と可能性を鋭く指摘した。本書はその続編ともいうべきもの。
本書の要点は以下の通り。観光立国実現のために既存の文化財を観光資源として整備・活用すること。文化財を維持する財源を国の補助金偏重から観光客からの収入へと転換すること。文化財の利用を拡大することによって伝統技術の継承を促すこと。これらはすべて実証的なデータをもとにしており、現状の文化行政、職人意識の問題点を鋭く突いている。
最近、情緒的な日本礼賛論が目につくが、本書のような辛口の日本文化に対する視線こそが、日本の真の魅力をアピールするためには必要だろう。(東洋経済新報社 1500円+税)