「エミリの小さな包丁」森沢明夫著
主人公は、信頼していた人に裏切られ、仕事もお金も居場所も失った25歳のエミリ。両親はエミリが10歳のときに離婚、父親にはすでに別の家庭があり、母親には恋人がいて帰れる家庭はない。
さらに仲のいい兄は渡米中で頼るわけにもいかない。仕方なく、東京を離れて15年間会っていない祖父の家に転がり込んだ。そこは東京とは全く違う小さな漁師町。ずっと昔に妻を亡くして以来、そんな田舎町にひとりで住んでいた祖父は、何も聞かずエミリを淡々と受け入れる。食卓に並ぶのは、地元の魚や野菜で作ってくれた祖父の料理。一口食べたエミリは、そのおいしさに心を動かされ始めるのだが……。
高倉健主演映画「あなたへ」の小説版や、吉永小百合主演映画「ふしぎな岬の物語」の小説版でヒットを飛ばし、今年は「夏美のホタル」が映画化された著者による最新作。さまざまな事情を抱えて傷ついた人間が、自分自身を取り戻していく物語を優しくつづっている。
(KADOKAWA 1600円+税)