国民をないがしろにする日米交渉の妥協の歴史
昨年10月に大筋合意したTPPだが、例外のない関税撤廃という当初の理想はどこへやら、多くの例外事項が盛り込まれた妥協の産物となった。山田優、石井勇人著「亡国の密約」(新潮社 1500円+税)では、農政に詳しい2人のジャーナリストが、自由貿易とは程遠い、アメリカとの交渉の歴史を明らかにしている。
TPPでは、大半の農畜産物の関税が撤廃・大幅削減される中、コメは778%という高率の関税が維持された。一方で、アメリカとは年間7万トンもの「無関税輸入枠」を新設。貿易の自由化というTPPの精神とは逆行する、国による管理貿易に成り果てた。しかし、これは今に始まったことではない。今から20年も前に合意に至った多国間通商交渉「ウルグアイ・ラウンド」でも同じことが起きていたのだ。
同交渉では、輸入障壁の撤廃による貿易自由化の促進とともに、外国に対して門戸を開いていなかった農産品に対して、最低限の輸入枠が設定された。これは「ミニマムアクセス(MA)」と呼ばれている。コメの市場開放を巡る日米間の論戦の結果、日本は高い関税をかける代わりに、そのペナルティー分を割り増しにした上で、毎年一定量のコメを無関税で輸入することが義務づけられた。2000年度以降、MA米の量は約77万トンにも上っている。
義務づけられたとはいえ、これは日本政府が確信犯的に行っていることともいえる。MA米のほとんどは家畜の飼料や国際援助などに回されているが、需要が少ないため毎年逆ザヤとなり、14年度のMA米による累積赤字は3000億円を超えている。つまり、重い国民負担を強いながらアメリカの米を買い続けているわけだ。これは、自らの権益を守りたい農水省が編み出した妥協策に他ならないと本書。
TPPでは交渉の主役が官邸や外務省に移ったが、妥協の歴史は脈々と受け継がれている。国民をないがしろにした日米交渉の本質がここにある。