深層心理に潜む親子問題が夫婦の危機を招く

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 家裁調査官という職業をご存じだろうか。心理学や社会学などを身に付けた人間諸科学の専門家で、家庭裁判所にのみ所属する特殊な国家公務員だ。さまざまな家庭問題に直面する当事者に対し、面接等を行いながら混乱を解き、問題解決の道を探る役割を担う。

 村尾泰弘著「家裁調査官は見た」(新潮社 720円+税)では、現代の家族が抱えるさまざまな問題について、18年にわたり家裁調査官を務めてきた著者が数多くの事例とともに分析している。

 30代のミサコは、一方的に離婚を申し立てて家庭裁判所を訪れた。彼女は夫のサトルと姑の関係に嫌悪感が抑えられないと言い、遠方に暮らす姑と仲良く電話で話す夫の様子に、鳥肌が立つとまで訴える。確かに姑は過干渉気味ではあったが、ミサコの拒否感は異常なものだった。

 面接が進むうち、この問題にはミサコと彼女の母との関係が大きく影響していることが明らかになる。ミサコは厳格で支配的な母に育てられ、良い娘であることを強制される人生を送ってきた。サトルとの結婚でようやく母の呪縛から逃れられたものの、仲の良い夫と姑の関係が、ミサコの目には良い息子であることを強制されているように映ってしまった。かつての自分のような、親に支配されている人間と暮らすことは耐えられない。ミサコが離婚を求める真の理由は、ここにあった。

 これは、感情転移と呼ばれる心理的な現象で、抱え込んできた身近な人物への強い感情を、現在の人間関係に移し替えてしまう。気まぐれな養育態度の親の影響で見捨てられることに恐怖に近い感情を持つ人が、夫や妻、友人などを病的なまでに束縛するケースなどもこれに当てはまる。しかし、感情転移により生じた問題は、感情転移が起きていることに当事者が気づくことで、急速に解決に向かうこともあるという。

 本書では、DVや子供の非行に関わる事例なども紹介。家庭内の問題を解決するヒントが見つかるかもしれない。

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