佃島の商店街の一角にある〈はじめ食堂〉は、父がやっていた寿司屋を受け継いだ孝蔵が昭和40年に始めた洋食屋。帝都ホテルのメーンレストランの副料理長を務めていたので腕は確かだ。ある日、くたびれたジャンパーに膝の出たズボンという格好の少年がやってきた。メニューを見ても決められないようなので、孝蔵の妻、一子がすすめたビフテキセットに。テリーヌをつけてご飯もお代わりしたが、食べ終えると、実は一文無しだと言う。住み込みで働いていた工場が倒産し、社長が彼の貯金通帳まで持って逃げたとか。孝蔵はレジから札をつかみだして……。(「第1話」)
心がほっこりする洋食屋の物語。(角川春樹事務所 1400円+税)